サイバー大学

全ての授業、試験をオンデマンドで行うサイバー大学では、2024年度春学期から専門分野ごとに学修成果を証明するマイクロクレデンシャル制のカリキュラムを導入すると同時に、クレデンシャル別のオープンバッジを発行し始めています。バッジの取得を目指して再入学している卒業生もいます。このたび、川原洋学長から「オープンバッジの活用による学位プログラムのマイクロクレデンシャル化と教育効果」と題し、一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク設立5周年記念シンポジウム(2024年12月4日開催)においてご講演いただきました。その内容をご紹介します。


サイバー大学とは
サイバー大学は、2007年に開学した株式会社立の4年制大学で、全ての授業、試験をオンデマンドで行っています。学部学科はIT総合学部IT総合学科のみで構成され、高度IT人材の育成を目指しています。
学生の半分程度は社会人ですが、約4割が専業学生で、他にも主婦・主夫などさまざまな方がいます。20代の方が最も多いですが、30~60代以上の方も満遍なく分布しており、年齢層も多様です。
なぜ学位プログラムをマイクロクレデンシャル化したのか
サイバー大学は、2024年度春学期からIT総合学部の全カリキュラムを、学習内容をより細分化して専門分野ごとに学修成果を証明するマイクロクレデンシャル制に移行しました。
2023年度まではコース・プログラム制を採用しており、学生は3年次へ進むまでに卒業に至るプログラムを選択し、プログラム別の卒業研究科目を履修していました。ただし、3年次以降の専門応用科目では、学生ごとの履修の多様性を尊重し、実質的な必修科目を推奨科目としていたため、本来目指すべき教育効果が限定的になってしまうという課題があり、これを解消したいという狙いのもと、マイクロクレデンシャル制に移行しました。




マイクロクレデンシャル制カリキュラムにおけるオープンバッジの役割
マイクロクレデンシャル化の目的の1つには、履修前提科目をしっかり学習した上で専門性の高いテーマに取り組んでほしいということがありました。一方で、専門以外の分野への興味も尊重したいと考えていました。
その中で、オープンバッジを活用しクレデンシャル別に修了証明を発行すれば、それを取ろうという意欲が履修のインセンティブにつながるのではと期待しました。
さらに昨今、急速に進歩する技術分野では知識がすぐに陳腐化するという現状もあります。卒業後も継続的な学習をうながす仕組みとしてマイクロクレデンシャルは有効で、オープンバッジはそれをシンボリックに表現するものだと考えました。
さて、履修履歴がオープンであるからには、それなりの標準があり、社会で評価されるような内容でないといけません。そのため、サイバー大学としてマイクロクレデンシャルの定義を「学修成果の記録であること」「シラバス等において、明確に定義された基準に基づいた評価を行うものであること」などと質保証の基本方針を定めました。
サイバー大学におけるマイクロクレデンシャルの構成についてご説明します。卒業単位修得に至る科目履修体系を分野別にクラスター化し、単位認定だけでなく、修了証明を行います。そして履修体系を階層化し、難易度や達成度に従って、バッジの種類と名称を変えています。
ゴールは卒業研究科目で、この科目を修了した際にはプラチナバッジを発行しています。他の履修分野については、ゴールドバッジのランクで複数のバッジを取れるようにしました。以前のコース・プログラム制においては専攻として、1つのプログラムしか選べなかったところを、他の学習領域も修了することで副専攻も選べるようにしたということです。
専門科目のマイクロクレデンシャルはスタッカブル(積み上げ)型になっています。1番下には、ブロンズバッジで表現しているテクノロジー系とビジネス系の計8科目を合わせた「IT総合学基礎」があり、これを修了した上でシルバーバッジの「テクノロジー基礎Ⅰ」「テクノロジー基礎Ⅱ」「ビジネス基礎」「数学基礎」に配置されている、それぞれ2~4の専門科目の単位を取得していきます。
専門応用分野はゴールドバッジで定義され、テクノロジー系では「ネットワーク」「セキュリティ」「ソフトウェア」「AI」、ビジネス系では「起業」「経営」「管理」「生成AI活用」という科目群があります。「AI」のゴールドバッジは、「数学基礎」のシルバーバッジを獲得した先にあります。
また、サイバー大学は教養教育にも力を入れ、教養・外国語科目のリテラシー系オープンバッジも設けています。例えば、シルバーバッジには「アカデミックライティング」「コミュニケーション」「実践英語Ⅰ」「実践英語Ⅱ」などがあります。
学生の履修例をご紹介します。ソフトウェアエンジニアになりたい学生は、「ビジネスが分かるITエンジニア」になることを意識し、「ソフトウェア(卒業研究)」のプラチナバッジを取得しつつ、「起業」でゴールドバッジを取得する、というパターンがあります。
一方、AIを主軸にテクノロジー分野を網羅したいという学生は、テクノロジー系のゴールドバッジを全て取得することも可能です。
ただし、決して私たちは単位認定や学位を軸にした教育体系について根本から変えようとしているわけではありません。これまでの単位認定や学位も大切にしながら、マイクロクレデンシャルも生かしていきたいと考えています。
単位認定は1つの記録として残りますし、学位は恒久的な記録です。
一方で、マイクロクレデンシャルは小規模かつ比較的短期間に履修が完了する学習領域のため、身近な目標設定ができます。生成AIのように、在学中にどんどん新しい内容が生まれる分野のメンテナンスがしやすいのもメリットです。
オープンバッジのメタデータとバージョン管理
サイバー大学のオープンバッジには、学修成果、授業の方法、学習時間、評価の方法といった多くの内容をメタデータとして記載しています。
また、バッジにはバージョンをつけています。実際に、一部のバッジでは学期中にカリキュラムが更新され、包含されている科目で修得可能な知識とスキルが増強されてバージョンアップするということがありました。こうした場合には学生に対して、例えばバージョン1から2にアップグレードしてもらうための補習も行います。
教育効果と今後のチャレンジ
マイクロクレデンシャル制カリキュラムに移行した理由を学生に尋ねたところ、最も多かったのが「オープンバッジを取得したかった」という回答でした。学生にとってはオープンバッジが学ぶインセンティブになっています。
また、「マイクロクレデンシャル制にどんなことを期待しますか」という質問に対しては、「科目を受講する意欲が向上する」という回答が最多でした。目の前の目標が明確になったので、学習意欲が向上したのだと思います。さらに「視野が広がり、別分野に挑戦する意欲がわく」という回答が2番目に多かったです。他の学習分野に対しても十分な興味を持って学んでくれることを期待しています。
マイクロクレデンシャル制に移行したことを受け、卒業生にも科目等履修生としての再入学を呼び掛けたところ、普段は若干名しかいないところ、90名以上の卒業生が科目等履修生として戻ってきてくれました。自身が学んだ知識や能力の証となることや、生成AIなど、在学中に存在しなかったマイクロクレデンシャルによって、最新の知識を学べることをメリットと感じている卒業生が多いようです。
質疑応答
Q)発行したバッジを、学外でも価値があるものにしていくため、どのようなことに取り組んでいきますか。
A)メタデータに加えて、シラバスや学生のポートフォリオをオープンにする準備がされていることが大切ではないでしょうか。
これからジョブ型で人材が採用されていく時には、その人の具体的な成果物や技能に関する属性情報も含めて提示できることが重要だと思います。ゴールドバッジの詳しい内容を見るだけでも、かなりその人のスキルマップは見えるのではないでしょうか。
Q)どんな体制でオープンバッジを導入し、メンテナンスしていますか。
A)マイクロクレデンシャル制に移行するにあたって教職員が一体となって2年以上かけてシラバスの管理、システムの開発をはじめとする制度設計に取り組みました。フットワークよく前向きに取り組んで、今の制度ができました。
川原学長インタビュー
川原学長に、オープンバッジ活用をめぐる展望などをうかがいました。
Q)オープンバッジを導入した狙いについて、改めてお聞かせください。
A)導入の狙いは、学習者主体の学修分野の専門性の強化と多様性の両立です。それに加え、サイバー大学が取り扱っているテクノロジーやビジネスといった分野は、急速に変化し続けています。特にテクノロジーについては、例えば少し前まではPythonなどのプログラミングに力を入れている社会人も多かったのですが、今は業務に直接応用できる生成AIについて学ぶ必要が出ています。
学生がテクノロジーとビジネスの双方の領域で必要なスキルや知識を、大学4年間で全て学ぶことは難しいですし、すでに働いている社会人は、必要とされる知識やスキルが常に変わっていく状況にありますよね。そこで卒業生や社会人も専門教育プログラムで継続的に学べるようにしたいと思い、マイクロクレデンシャルとそれに紐づくオープンバッジを活用することにしました。つまり、オープンバッジの獲得や更新は、継続学習のインセンティブとして効果を発揮します。
Q)一部のオンライン授業を福岡市立高校4校の生徒に無償提供し、履修・合格した生徒にはオープンバッジを発行する取り組みも行っていますね。
A)生成AIやデータサイエンスなどのトピックをいち早く学ぶことで、より成長が期待できる生徒もいるでしょう。オープンバッジを獲得した高校生がサイバー大学に入学した場合、履修科目は卒業単位として認められます。その分、在学中にプラスアルファの学習をするなど、学生生活の選択肢が増えると思います。
Q)オープンバッジを生かした海外との連携について、考えていることはありますか。
A)本学の授業を多言語化して海外からも受けられるようにし、オープンバッジを海外の方にも発行していきたいと思っています。
Q)オープンバッジの活用も含め、今後のサイバー大学の展望をうかがえますか。
A)繰り返しになりますが、オープンバッジの獲得はサイバー大学で学んでいる全ての方々に継続して学習していただくためのインセンティブとなります。そのためには授業コンテンツの更新と拡大をさらに進めていきたいと考えています。
また、科目に大規模な変更があればオープンバッジのバージョンは更新されます。卒業生の皆さんには「学びの内容をアップデートしましょう」ということを都度伝え続けていきたいと思います。
再入学し、オープンバッジを取得した卒業生インタビュー
サイバー大学を卒業後、科目等履修生として再入学し、オープンバッジを取得した女性に、オープンバッジの活用法や今後の目標をうかがいました。
Q)サイバー大学に再入学し、どのような授業を受講しましたか。
A)オープンバッジを取得するため、データサイエンス入門の授業を受講しました。最新の情報も盛り込まれていたので参考になりましたし、うまく自分の知識とつなげることもできました。
Q)オープンバッジを取得したいと思ったきっかけを教えてください。
A)私は個人事業主として、ウェブサイトの立ち上げや、チラシや名刺作りといった仕事をしていますが、自分にどんなスキルがあるのか説明するのが難しいと感じることがありました。そこでプロフィールシートなどにスキルをうまく掲載する方法がないかと思っていたところ、オープンバッジを知りました。
調べるうちに、オープンバッジを取得すれば、メールやクラウドソーシングサイト上のプロフィールなど、さまざまな場面で活用できると分かりました。これまでの経歴だけでは太刀打ちできない時代になってきているので、最新のデータサイエンスを勉強してきたことを示したいと思いました。
Q)実際にオープンバッジをどのように活用していますか。
A)メールの署名や、お客様にお見せするプロフィールシートなどに載せています。オープンバッジを見せると「よく分からないけどすごいね」という反応をいただくことが多いです。
Q)今後もオープンバッジをさらに取得したいという思いはありますか。
A)はい。これからもサイバー大学の授業を受講して、AI関係のオープンバッジを取得する予定です。オープンバッジがあることで、スキルや学んできたことを簡単に示せることがモチベーションになっています。